プロローグ

やあ、僕だ。久しぶり。

これは旧ブログの第一話。こんな感じで過去記事も徐々に復活させて行こうと思っている。

数年間、ずっと紙の日記帳に文章は書いていたけど、オンライン上で文章を公開するのにはまだ慣れていない様子、気負いの様なものが伝わって来る。

——–

朝闇を切り裂いて進む。頬に当たる風は冷たく、白い息は後方に流れる。
あたりは深い闇におおわれていて、日が昇るまでにはまだ、しばらくかかりそうだ。
自転車を停めると、同期の体育会ゴリラ(通称)も息を弾ませながら駐輪スペースに自転車を滑りこませてきた。お互い目を合わせるだけで、言葉を発する気力もない。冗談を言い合う様な心理状態ではないのだ。

処刑場に連れて行かれる家畜のような濁った目。
きっと僕もああなのだろう。

新人にはエレベーターを使う権限はない。階段を一歩一歩踏みしめて登るたびに暗鬱な気分が増してくる。

 

「おはようございます!本日も一日よろしくお願いします!」

 

全てを諦めた気持ちで、空虚な気力を絞り出し、挨拶の辞を述べる。フロアはそこだけが外界とは別世界の様に明るい。各課のマネージャーやベテラン社員たちはほとんどが既に出社していて、思い思いの朝の時間を過ごしている。挨拶には、誰も返さない。けだるく重たい沈黙が垂れ込める。

 

「おはようございます!本日も一日よろしくお願いします!」

 

体育会ゴリラも、続いて挨拶をするが、その声は同じように虚しく響くだけだ。

パチ…、パチ…、パチ…。
ベテランのエース営業マンが爪を切る音が鳴る。

 

僕はパソコンの電源を入れて、前日の市況をチェックし、新聞を繰る。相場の大きな流れを踏まえて、今日のだいたいの雰囲気を感じ取る。この瞬間は好きだった。株小僧だった頃の血がたぎる。

30分も経つと、みな、続々と出社し始める。
同期のギャル男(通称)も揃った。

「おう、おはよう」

上司が来た。
心臓が、ぐわしと締め付けられる錯覚にとらわれた。
緊張で、気持ち悪くなるのだ。

 

朝礼が始まる。支店長から全員に向けて軽く訓示があり、あとの細かい情報伝達などは各課に分かれて行われる。支店長も口調こそ穏やかながら、見た目は完全にヤクザそのもので、声に底冷えするようなドスを利かせて喋る。僕の上司も、この支店長の事は、恐ろしくてたまらないらしい。

 

「集合…!」

 

上司の号令がかかり、僕たち小僧は小走りで円陣を組む。
軽い事務連絡が行われ、そこからは、罵詈雑言と個人攻撃、精神攻撃の嵐であった。

 

「お前、遅れてるぶんどうやって取り戻すんだよ!?オイ!」

 

そんな事、知るわけが無い。みんな、今日の事は今日の乾坤に賭けるしかなくて、朝の時点でそれが分かれば苦労など無いのだ。そう、分からない。知るかよそんな事。僕に聞くな。

 

「○○様で何万、本日11時からアポイントで、そこで取ります!」

 

ぐらいの返事が出来れば、まあいい。

 

「ふん」

 

と鼻を鳴らす上司。

 

「んで?そこから今日は幾らまでやるんだよ!?」

 

となる。理不尽を絵に描いた様な問答が続く。僕は何とかこの問答をクリアしたが、内心は、どうしようどうしよう、と気が気ではない。心臓が爆発しそうだ。

次は体育会ゴリラの番だ。
彼は、すこぶる仕事が出来なかった。抜群の体力や世間で言う高学歴、愉快で優しい人柄に恵まれていたが、この金融の仕事にはそれとは違う「何か」が求められていて、惜しむらく、彼にはそれが無かったからだ。

 

「てめえ!舐めてんじゃねえぞ!」

 

フロアに怒号が鳴り響くとともに、上司は体育会ゴリラのネクタイをひっつかんで、顔を近づけて恐ろしい形相で凄む。

 

「今日もやらねえで逃げるつもりか!?みんな苦しんでるんだぞ!?楽してんのはお前だけなんだぞ!?」

(ひっ!)

 

声にならない彼の悲鳴を聴いて、僕は顔をそむける。あまりにも理不尽だ。これが犯罪級のパワーハラスメントである事に異論の余地は無い。これ全然作り話じゃなくて、実際にあった事だし、たぶん今も『あの業界』では毎日行われている事だろう。こうして一人一人を吊るし上げて、言葉のナイフを突き付けて脅し上げて、「朝礼」は終わる。そこからは、朝、申告した数字を死に物狂いで取って来ないといけない。気が気ではない。

 

夜。

「飲みに行くか?(笑)」

「行っちゃうか?(笑)」

 

体育会ゴリラと僕は、家の方向が同じだったので、仕事あがりに毎日居酒屋で酒を飲む。恐怖の時間から解放されたおかげでか、気が大きくなって、と言うか、色々な事象を端折って言うと、「飲まないとやってられない」のだ。また明日の朝も早いのに、飲まずに家に帰ると、明日の事が気鬱になって潰れてしまいそうな錯覚に陥る。逃げるために飲む。身体は着実に蝕まれていた。

 

今日、結局、またしても数字を積めなかった体育会ゴリラは、夕礼で、上司から身のすくむおぞましい罵り言葉とともに、蓋の空いたペットボトルを投げつけられていた。水をかけられるなんて普通と言えば普通だが、上司もキレてしまっていて、人としてのタガはとっくに外れていた。離婚しているし、友達も居ないし、部下からも軽蔑されている。弱い人だ。それを虚勢張って隠そうとする。

 

人間関係を普通に結べないのはあそこで働く人たちにはよくある現象で、要は病気なのだ。みんな病気。あの世界では人間の心なんか早く捨てないといけない。

掃き溜めの様な生活だった。

 

僕がかつて密かに胸に抱いた青雲の志は、早くも風前の灯火となっていた。
この生活の延長線上に、どうやって『あの日思い描いた自分が実現したい未来』を見い出せるか、分からなくなっていた。絶望しかない。

昂ぶりを必死に抑えながら、義務感で床に就く。

ああ、また、明日が来るのか。

 

——

 

 

当時の自分に預言者風に言ってやりたいな。

お前は数年後、勤め人を卒業してニートみたいな生活をする事になるだろう、好きな仕事しかやらない生活であるが毎日そこそこ仕事があって楽しく生きているであろう、と。

そんな自分に付ける薬だが、一つはVoicyのこのチャネル。

サウザーラジオ〜青雲の誓い〜 第一話 青雲の志を抱いて

何を隠そう僕のVoicyチャネルだ。「僕は勤め人を卒業してニートになるぞ」という『青雲の志』を高らかに謳い上げるものだ。

うだつのあがらない勤め人として、擦り切れていた頃の自分が聴くと、きっと元気になるだろう。

もう一つは、未来を知っている僕は当然分かってる事だが、新卒で入社したこのブラック企業には2年半後に反乱する事になる。

その戦いに必要となる知識が詰まったオーディオブック。要するに、未払い残業代を請求する方法とその戦いの記録である。

当時の自分が聴けば小躍りして喜んだであろう内容だ。

をはり

11 件のコメント

  • とんでもないブラック企業に2年半も勤めていらっしゃる
    ったこと
    そしてそういった中でも自らの理想を現実化した精力、敬服いたします。
    私も勤め人を卒業できるよう、貴ブログを拝見させていただきます

  • サウザーさん、新ブログおめでとうございます。
    ツイッター上でタロウとしてサウザーさんにコメントしている32歳の工学生、岡山県、独身の勤め人です。

    旧ブログの初日から閲覧させて頂いていました。ブログを含め、白熱教室の音源は初期からほとんど全てチェックしています。
    ボイシーも開始され、おめでとうございます。
    サウザーさんの音声で特に好きなのは、yuuさんとのソロストナン談議です。
    昨年の初夏は毎夜、サウザーさんとyuuさんのソロストナン話を聞いてモチベーションを高めていました。
    たまたま勤め人としての出張で某地方都市に数週間滞在するとになり、栄の街でストナンを実施、結果は即らずですが男の格を上げることがありました。
    その時の感動を忘れまいと今でも某地方都市の風景をツイッターのアカウト画像としています。
    今では岡山で三人の彼女と楽しくやっています。
    本当にありがとうございました。

    旧ブログでは公家シンジさんの提案で書籍化を目標とする諸事情があったとのこと、その事情を知らず閲覧のみさせて頂いていました。
    旧ブログは初日から突き刺さる内容であり、今思えば書籍化しなかったことの方が不思議です。

    なお、旧ブログでは初日のブログで、
    「なにも突拍子もないことを言っているのではない。女も金も、ただ少し充実すればいいのだ。」
    というくだりがあったと思います。
    僕はこの言葉が強烈に作用し、ここまで色々なことを継続、達成することができました。
    この日のブログが初日に来るものと思っていました。また機会がありましたら、再度公開をお願いしたいです(><)

    サウザーさんは本当に私の人生を変えた師です。
    本当に感謝し、応援しています。
    これからも頑張ってください!

  • ブログの再開おめでとうございます。
    私はサウザーさんのブログのヘビーな信者で、旧ブログを二周も三周も読んでいました。書籍化の実現を祈る一方で、他の人にあまり知られたくない、と思ってしまう私がいます。

    私は都内の大学の二年生で、これから就活を含めた将来のビジョンを形成して行こうという段階におります。
    サウザーさんのブログを知る以前からも法人設立や副業に関する書籍を読み耽っていたこともあり、「ゆるふわ大企業+副業」でお金を稼ぎ、種銭が生まれ、副業が十分に拡大した段階で独立を図る、という方針を志しております。

    大きな会社であればあるほど、部門や業務内容も多岐にわたり、同じ会社内でも働き方がゆるふわであったりそうでは無かったりすることがあると思います。
    そこで、独立を前提とした就職に適した会社の選び方や、サウザーさん自身がもし学生時代にもう一度戻ったとしたらどういう基準で就活をするか、などについて教えていただきたく思います。

    今まで学生生活や就活についての記事をお見かけしたことがなかったので、この業界は基本オッケー、この業界はマジでやめとけ、などざっくりしたところからサウザーさんの思うところを教えていただけたら、と思います。

    • 今大学生なら未来は希望だらけよ。
      この業界はマジでやめとけ、は、物を扱わない業界。表ヅラは綺麗だけど、やってること汚い業界。金融、保険、不動産など。
      今の経験があって就活するなら、事業を全体でやらされる(やらしてくれる)ベンチャーかな。超ブラックでも、ビジネスモデルパクればペイするから。

  • 新ブログおめでとうございます。
    僕はサウザーさんの旧ブログは5回以上読んでいます。重要だと思う記事は10回読んでいるかもしれません。

    サウザーさんのブログのおかげで、日記帳に筋トレの予定をたて、毎日記録していくことで7ヶ月間筋トレを続けることができました。
    おかげでかなりマッチョになり、20代後半の同年代の友人と比べて圧倒的な体力を獲得できました。
    エロ動画、AVなどは全て処分し、オナ禁も190日間継続しています。
    旧ブログ時代は定期的に読み返して、自分の日記に目標を書き写し、実行していたので、ブログ消滅時は非常にショックを受けました。

    旧記事の復活を楽しみにしています。

    • それは申し訳ない事をした。旧ブログ、ぼちぼち復活させて行きますよ。
      書き下ろしの記事も、さすがにブログ書きは上達してるんで、一層パワーアップした内容でお届けしたい。

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