奴隷の烙印

初期のストーリー調の記事。文章が若い。

だけど言ってる事は今と全く変わらない。

ちなみに後日談になるんだけど、このギャル男くん、数年ぶりに一緒に飲んだらIT広告の分野で起業しててお金持ちになってて笑った。

新卒でこのブラック企業に就職し、次にチャラい広告代理店に転職して、ノウハウを盗んで起業。王道パターンだとおもう。

宵越しの銭は持たぬスタイルは健在で、今もめちゃくちゃな散財ぶりである。

 

—以下本文—

 

同僚のギャル男は、かねてからの念願だった左ハンドルのBMWを探し当て、ほぼフルローンで買っていた。4~500万はしただろうか。社会人一年目にしてだ。彼は上司の悪謀にまんまとハメられたのだった。

 

鬼の様に恐ろしい上司は、部下から車が欲しい旨の相談を受けると意味がわからないぐらい上機嫌になり、人が変わったような懇切さでその相談に応じる。部下を借金漬けにしてしまえば自家薬籠中の物として手玉にとって操れる、そんな、業界のお家芸なのだろう。マネージャーたるもの、部下をローンまみれにして会社を辞められなくなるよう追い込んでこそ、その道の上手なのである、と。

 

僕も在職中はやたらと「そろそろ車買え」だとか「家買え」だとか「嫁もらえ」と介入されたものだった。マネージャーから見て、会社員として僕に足りないものは明らかに忠誠心だったからだ。こいつは早く鎖に繋いで、額に奴隷の焼き印を捺さねば、と焦ったのも無理はない。

 

僕は仕事に必要な机上知識なら新入社員の分際で10年目の先輩より持っていたし、社会不適合のダメ人間のくせに対人交渉にもそつがなかった。従って、売れた。売れまくった。現場2ヶ月で次々に先輩を追い抜いた。適正はあった。しかし、サラリーマン文化には恐ろしく不適合でもあった。
不思議な事に、あの会社は、どの車を買うかにもいちいち口を挟む。とりあえず中古の国産車を許容する雰囲気は、無い。仮に軽自動車を買おうものなら「軽?はぁ?あほじゃねえの!?」とか、「軽だからおめえ仕事出来ねえんだ!」のように、毎日の罵りネタになる。

 

なぜか。

 

車は、乗り物などではなく奴隷の烙印だからだ。一緒に奴隷になろう、一緒に支払いに苦しもう、と言う同調圧力の象徴なのだ。

 

ギャル男は、希少な南アフリカ仕様のBMW(左ハンドル)が手に入ったとはしゃいでいた。おーうお前気合い入ってんなあ!!と上司や先輩からチヤホヤされてもいた。しかし、毎月の支払いに苦しんだ彼は、夜一玉30円のうどんを食べて飢えを凌いでいたと言う。むしろ食生活のほうがアフリカ仕様だった。燃費はハイオクで4km/Lで、駐車場代が月4万。誰も彼の無謀を嗜める者はいない。

 

もの凄い額の年俸を貰っているともっぱらの上司も、総額1800万円の、改造しまくって宇宙船みたいになったクルマに乗って、いつもそれを自慢していた。なのに、飲み会の会計になると、小僧の僕らにまで割り勘を要求して来るような恥知らず野郎だった。

そう、みんな等しく金が無い。

 

仕事から得る異常な興奮とストレスは、人の頭を狂わせて、めちゃくちゃな消費行動を起こさせる。確かに金融業の給料は高いのかもしれないが、豊かな人は誰もいなかった。

 

今の僕は、社会人歴もそこそこ積んだものの、「年収」は新卒の頃からさほどは変わっていない。しかし、圧倒的に今の方が豊かだ。毎月、けっこうな額のお金が手残りするし、貯金もできる。何しろ、時間がある。

いつしかお酒も嫌いになり、十歳以上年下のアラツーの彼女と仲睦まじく、毎日、心豊かに暮らしている。ちょっとの気付きとコツで、誰にだって出来る事だ。

 

僕なんか、元を正せば学業不振の株小僧で、社会不適合のダメ人間で、今も絵に描いたようなうだつのあがらないクズリーマンをしている。「仕事がデキる」なんて、最初に勤めた金融業で褒められてたのを最後に、もう何年も言われたことは無い。「日報を書け」とか「提出物が遅い」とか、小学生レベルの事で怒られている。そのくせやたら反抗的な態度を取る。今の温厚な上司は、内心、僕のことを八つ裂きにして内臓を食いちぎりたいと思っているだろう。

 

勤め人の仕事にぼんやり取り組む一方で、自分の事業の方は妥協せず周到に打ち手を考えてコツコツ作って来た。

 

今、自由に遣えるお金という観点からすると同年代のハイスぺ高収入たちを一気にゴボウ抜きして、トップクラスに躍り出たと思う。日々のストレスは少なく自分の自由な時間もある。セックスの具合もいい。まあ楽しくダラダラやってる。勤め人もいつ辞めたっていい。こういうくだらない生活を手に入れるために僕は頑張ってきたのかもしれない。

 

高い能力と熱い根性で勤め人道に励む同年代は、ぼちぼち管理職になり始めてストレスまみれの毎日だと言う話も聞く。ブサイクで性格が悪くて貧乳な奥さんと、ケンカばかりしているとも。

 

ちょっとの気付きとコツで、そんな理不尽な人生から逃れられるのにと思うと、かわいそうだ。まずは現代の奴隷制度、労働力再生産の罠を見切るところから話を始めよう。